現段階での過度なドル安論は時期尚早!?

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 7月31日のNYクローズが114.66円と月初の114.13円を上回ったことで、月足チャートは2000年以降7年連続の陽線となり、焦点は「8月=ドル安」という季節性又はアノマリーによるドル安の深度に移ってくる。 

 通貨の歴史において「8月」は、ニクソン・ショック(71年)、イラクのクウェート侵攻(90年)、ゴルバチョフの失脚(91年)、ロシア金融危機(98年)など、重大事件の勃発とともに相場の重要な転換点になってきた。 
 近年では、7月のドル高に対して8月がドル安となる傾向が多いことから、「ドル安への転換月」というのが8月相場のアノマリーとなっており、90年以降のドル/円は月足・陰線率が81.2%と年間で最も高く、98年以降では8年連続で陰線を出現している。

 この8月の季節性は、世界的に夏期休暇シーズンの最盛期を迎えることであり、市場参加者層が薄くなるなかで重要指標の発表や金融政策イベントにより値動きが増幅される傾向にあり、米国債四半期利払い償還などへの思惑も手伝って例年3~7円幅のドル安・円高を加速させてきた。 

 ただ、ドル安示現後の相場展開については、「続落型」と「反発型」に大きく二分しており、どちらの変動パターンになるかの見極めこそが重要となってくる。
 足元では、米利上げ休止観測を背景にドル売りムード一色になっているが、ワシントンG7後のドル安が急速に切り返した状況や要因を思い起こす必要があるかもしれない。

 現状ではグローバル・インバランス(世界的不均衡)は主要なテーマとなっていないため、単純には比較できないものの、持続可能な相場トレンドの方向性はマクロ経済政策と整合的であるかどうかが重要であり、特に米金融政策スタンスがカギを握ることになる。 

 先週末に発表された米4-6月期GDP速報値は前期比+2.5%となり、潜在成長率とされる3.2%や事前予想の3.0%を大きく下回る一方、個人消費支出コア価格指数は年率+2.9%と、前期の+2.1%を上回り約20年ぶりの高い上昇率を記録しており、物価動向は警戒が怠れない状況にあることを示した。

 FRBが議会から与えられている2つの目標は「物価安定」と「完全雇用」であり、その目標を達成するには「インフレ抑制」が絶対的な必要条件となってくる。

 昨日は二人の地区連銀連銀総裁の講演があったが、両氏とも利上げ最終局面入りを滲ませる内容となっているものの、依然として金利について決定を下していないことを示唆している。 FOMCの重鎮であり景気重視派のサンフランシスコ地区連銀イエレン総裁は、現在のFFレートは適正水準に「接近」しているとの認識を示す一方で、原油価格がワイルドカードになっていると明言しており、自らのインフレ予測が上振れするリスクがあると付け加えている。

 中東発の地政学的不確実性が原油高を押し上げるリスクが存在するほか、米国ではこれからハリケーンシーズンを迎えるとなれば、FEDのインフレ警戒姿勢は継続することになり、インフレ抑止としてのドル高(安定)が引き続き金融政策を補完するうえで重要な政策ミックスとなってくる。(『FRBに逆らわない』のが投資哲学の一つ)

 こうした状況下、外為市場で投機的な売買動向を見る際の指標となるIMMファンド筋の円の持ち高は、07/25時点で2週連続のショート拡大で過去最高の売り越しとなっていることが明らかになっている。

 膨大な円ショートポジションは、日銀がゼロ金利解除(07/14)を決定した直後から構築されており、バーナンキFRB議長の議会証言(07/19-20)や、FOMC議事録(07/22)の発表で米利上げ休止観測が浮上していたにもかかわらず、膨大な円ショートが維持されていたことになる。 筆者がドル安定見通しを強めた時期と一致しているが、IMMファンド筋が中期的な円ショート戦略に基づいてポジションを構築している可能性は念頭に置いておきたい。 

 先週来のドル安・円高の過程では、相応の円ショート・カバーが進展しているものと推測されるが、IMM日本円通貨先物市場の取組高の増減状況では、依然として膨大な円ショートが残存している可能性を示している。

 過去の米利上げ打ち止め局面を検証してみると、一時的なドル安を促しても、その後は中期的なドル高・円安トレンドを描いていることがわかる。 米国経済が減速に向かうとすれば、米景気敏感株の位置付けにある日本株の見直しにつながるうえ、日銀の「追加利上げ先送り(=実質マイナス金利の継続)」を促す要因となってくる。

 債券投資の観点からは、米利上げ打ち止め局面が米国債の絶好の買い場となり、これまでも潤沢なジャパンマネーが米国債に向かっている。 今年5月にドルが急落した局面では、日本の投資家は中長期債を1兆1,757億円買い越していたことが財務省の統計で明らかになっている。 
 つまり、日本の投資家はドルの押し目買いをしていたわけであり、今後は130兆円を超える「団塊マネー」の行方が焦点となってこよう。
 この8月には米国債四半期定例入札があり、足元のドル安は米国債の絶好の押し目買いを促す可能性も想定されてこよう。(米財務省は8月2日に定例入札の詳細を発表する)

 いずれにしても、現段階での過度なドル安論は時期尚早であり、今週発表される米重要マクロ指標を睨みながら米利上げ休止後のシナリオを描いていきたい。

(8月1日 11:35記)

この記事へのコメント

kyo
2006年08月01日 16:07
いつも参考にさせて頂いています。

文中のアノマリー(anomaly)はアナロジー(analogy)ではないでしょうか?
mori
2006年08月01日 16:10
ご指摘ありがとうございます。
私は、アノマリー(理論的根拠の無い経験則)の意味で使ったつもりですが、アナロジー(類似・相似)でもいけますね。

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