賞味期限付きの「政策的ドル安定」

画像

 今週明けのドルの主要通貨相場はほぼ全面高の展開となり、対円では一時115.78円まで上昇し、テクニカル面で重要なワシントンG7ギャップ(=115.95-116.55円)の下限に迫る場面がみられた。

 5月第3週を境とするドル反転を促した最大の要因を挙げるとすれば、米国でのインフレ懸念の台頭がトリプル安に発展し、「政治的ドル安」という整合性を欠くポリシー・ミックスが、インフレ抑止の「政策的ドル安定」へ軌道修正されたということであろう。

 また、「市場との対話」で信認を失いかけていたバーナンキFRB議長はインフレ抑止に向けた強い姿勢で信認を取り戻す一方、外国人投資家から信任の厚かった福井日銀総裁は個人資産問題で信認が揺らぎ始めており、日米金融政策の先行きに対する市場の見方は大きく修正を余儀なくされている。

 まず米国についていえば、5月FOMCで5.00%への金利引き上げにより、一連の利上げサイクルが休止されるとの見方が優勢となっていたが、現状では6月FOMCでの5.25%への利上げが確実視(108%の確率)されており、さらに8月FOMCでの5.50%への利上げ確率は76%にも達している。 つまり、市場の米金利見通しは、5.00%で打ち止めされるとの見方から、5.50%への利上げ継続を織り込まされており、これが急速なドル買い戻し(⇒主にショート・カバー)を促す原動力になったものと観測されよう。

 一方の日銀についていえば、一時は6月のゼロ金利解除観測が出回る場面もみられたが、金融市場では7月解除でコンセンサスが形成されつつあったが、足元では福井総裁の村上ファンド資金拠出問題からゼロ金利解除が遅れるとの観測が浮上しており、これが新たな円売り要因とされている。 外為市場で投機的な売買動向を見る際の指標となるIMMファンド筋の『日本円』の持ち高(06/13時点)は、04/25以来7週ぶりの売り越しに転じていたことが明らかになっている。

 地政学的要因についても、イラン核開発問題が「緊張状態」から「包括見返り案」が提示されるまでに改善する一方、足元では北朝鮮ミサイル発射問題が日本のリスク要因として意識されている。

 まるでオセロゲームのようにドル安の目が次々と裏返されてきたが、最も重要な点は持続可能な相場トレンドの方向性であり、USDJPYの戻り上値が「グローバル・インバランス」の象徴でもある“ワシントンG7ギャップ”の手前で抑えられているのは、同水準が臨界点として意識されているからであろう。

 米金融当局者による一連のインフレ警戒発言は、FEDのインフレ抑制策に対する信認の確立であり、それはFEDが描く“米経済のソフトランディング・シナリオ”に沿った「利上げプロセス休止」に向けた布石とすることができよう。 

 今後発表される米経済指標は、2004年6月を起点とする累積利上げの引き締め効果を反映して減速を示すと同時に、遅効性のあるインフレ指標もピークアウトが予想されるため、6月の追加利上げを乗り切れば、FEDの「インフレ警戒姿勢」によるインフレ抑止効果(期待)から8月は利上げ休止の可能性が高まってこよう。(⇒インフレ抑止効果が実際の利上げと同等の役割を果たす)

 来週のFOMCではFFレートの誘導目標が現行の5.00%から5.25%へ引き上げられる見通しとなっているが、現状5.17%の2年債、5.11%の5年債、5.13%の10年債、5.17%の30年債利回りは、全て短期金利を下回ることになる。 
 短期金利を下回る米国債への継続的な資金流入は見込みづらく、膨大な「双子の赤字」を抱え安定的な長期資本の流入を必要とする米国経済にとっては、不安定な短期資金への依存度を高めることになりかねない。

 いずれにしても、米当局による「政策的なドル安定」は、インフレ抑止の目的が達成されるまでの賞味期限が付きであり、FEDが描く米経済のソフトランディング・シナリオには緩やかなドル安が組み込まれていることも念頭に置いておきたい。 それまでは、ウォール街の投資哲学でもある「FRBには絶対に逆らうな」を守り、トレーディング相場を楽しんでいきたい。

(6月20日 11:30記)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

う~ぱる~ぱ
2006年06月20日 13:57
森さん、こんにちは。本日の記事でも書かれていますが、米国の『政治的ドル安(誘導策)』は整合を欠く、とされていますね。インフレ阻止のための引き締め政策では、投資通貨としてのドルへの魅力を増し、一方でドル安誘導をするには無理があり、
この政策は長続きしないということだと思います。
では、むしろ整合性のあるはずの、金利引上げ、
ドル安定の政策が賞味期限付きの刹那的な?政策と
いうことになるのでしょうか。米国自身が本来
ドル安をもし望んでいるのだとしても、金利の
引上げもしくは、高位安定ではドル安誘導は
無理のようなきがします。従って、むしろ逆に
政策的ドル安定は、意図しないドル上昇を長期に
わたり引き起こすことになるのではないかと思います。
mori
2006年06月20日 14:19
こんにちわ

ご指摘のように、このままであれば意図せざるドル上昇が持続する可能性があり、同時にドル急落のリスクを高めることになると思います。

私が「政策的ドル安定」を賞味期限付きとしたのは、バーナンキFRB議長や主要各国要人が警戒しているように米経常赤字問題が持続不能であるからです。
グローバル・インバランスを持続させれば、それだけ米長期金利急騰とドル急落のリスクを高めることになり、それは世界経済に多大な悪影響を及ぼすということです。(日本は過去に幾度も暴力的な円高を経験しています)

 今日のコメントでは削除しましたが、昨日発表された米住宅市場の変化を最も敏感に反映する住宅市場指数(住宅建設業者の景況感指数)は11年ぶりの低水準に落ち込むなど、米景気指標は確実に減速傾向を示しています。

インフレ指標は遅行指数ですから時間の問題で落ち着くものと観測され、そうなればFEDは安心して利上げを休止することができるでしょう。
(6月のFOMC声明では利上げ休止のサインは発することはなく、インフレ警戒姿勢を維持するとおもわれますが。)
続く
mori
2006年06月20日 14:19
インフレ懸念が落ち着けば、市場の関心は構造問題に向かうことになると思われます。
(米中間選挙の年のアノマリーはドル安)

私はもう暴力的なドル安は見たくありませんので、秩序あるドル安を望んでいます。
そのためには、福井日銀総裁には1日も早く出資問題を解決して頂き、不均衡を生み続けているゼロ金利政策の解除を行ってもらいたいものです。
う~ぱる~ぱ
2006年06月20日 14:54
なるほど、破滅的なドル急落より世界経済に悪影響を与えない緩やかなドル安であるべき、ということですか。IMFの意図する当面の解決策と似ていますね。暴力的な円高も相場の一つですから、値鞘稼ぎにはむしろ容易な相場ですし、過去の円高で日本経済が壊滅したわけではないので、私はむしろ歓迎したい気持ちです。ただ、昔と違い、金利差を求めてリスク投資をする個人資産が膨大ですから、一方的なドル売りだけにはならないので、歯止めが自然とかかると思いますね。中間選挙は11月ですね、
そろそろ7-9月あたりで米現政権の国益保護のためのドル安誘導が目にみえて来ないといけないと思います。また、グローバルキャリートレードは
円売りで膨大な蓄積にはなっているでしょうから、
これを早めに縮小させていくのは、むしろ日銀の
責務だと思っています。
mori
2006年06月20日 14:59
そうですね。日銀の責務は絶大だと思います。
ひとつだけ懸念されるのは、昔と比べて日本の個人投資家さんが大量にレバレッジを掛けて円売りを行っているため、むしろ逆に行ったときの値動きが増幅されるリスクがあることです。
できればそういう事態が起こらないことを願っています。
DDT
2006年06月20日 16:43
森先生、初めまして、DDTと申します。
以前より愛読させていただいています。
いつも、精緻な分析を惜しげもなく公開していただき感謝の言葉がありません。

先ほどの福井発言により、マーケットはドル売りに傾斜しています。
チラシの裏のようなことを思っていますが、政府の紐付きでないと言う証明の意味でも、案外早期にゼロ金利解除に動くのでは?
とも思っています。

先生はお優しいですね、参加している大勢の個人のことは何度も心配していられますね。
しかし、大勢のストップを狙うのも思惑筋の手口と御指摘されてもいますね。
もし、先生の危惧している事態が有ったとしても、個人は個人の自己責任ですから。
それに、先生の分析を勉強していれば避けられる事態とも思います。

私は現在の状態とファンダを見ている限りでは、先生の危惧していられる「暴力的なドル安」は避けられないのではない可能性が高いと感じています。
その時は、自己責任で流れに乗ってみるつもりです。

最後に、私達個人投資家の絶えず味方であり続けられる森先生に感謝の言葉を捧げます。
ありがとうございます。
mori
2006年06月20日 17:05
DDTさん、ありがとうございます。
方向音痴で曖昧な時もあるかもしれませんが、そんな時は「森は迷っている」というシグナルと解釈して頂けると気が楽になります。

ところで、案外早期にゼロ金利解除に動くというDDTさんのご指摘は、実は私たちの仲間内でも同じようにみていたんです。
つまり、福井総裁の資金拠出問題は日銀法に抵触するものではなく、民主党も党員の村上マネー疑惑で深追いができなくなり、この問題は鎮静化に向かう可能性が指摘され始めています。

こうした状況下、7月初めに発表される「日銀短観」は小幅改善が期待されており、先月までのコンセンサスであった7月会合でのゼロ金利解除を正当化するものとなります。

むしろ、「日銀短観」がよほどネガティブな内容とならない限り、7月にゼロ金利解除を決めないと、「日銀は政府に妥協した」との思惑が広まり、今度は本当に信認を失う可能性もでてくるわけです。

 市場心理は勝手なものですが、潮目が変われると全ての流れが変わってくるものですので、注意してみていかなければなりませんね。
DDT
2006年06月20日 17:55
御返答ありがとうございます。

仲間内では出ていたのですか?
これは心強い。
実際問題として、政府の紐付きではない証明、早期の信任の回復を謀ると考えれば導かれる結論は、早期ゼロ金利解除でしかないでしようね。
予測はしていましたが、民主党からも村上スキャンダルが出たのは追い風になっていますね。

確かに、世界第二位の経済大国の金融政策の決定する立場にある方としては、今回の顛末は宜しくはありませんでした。
本人も、立場悪用して立ち回る出であれば数千万程度のケチなことはやらんよ、と言いたいところでしようね。

道義的にどうか?との話は有りますが、日銀総裁就任前の民間の時の話ですし、出来れば就任時には、村上、保有株とも整理しておくのが理想でしょうが、迂闊なところがある人物ですから致し方ないことでしょうね。

テポドン発射の可能性が低くなってきていますので、このまま調整入りになるかもしれませんね、クロス円全般は。
mori
2006年06月20日 18:15
仰る通りだと思います。

クロス円については、特に欧州主要3通貨に対して円は独歩安となっていましたから、チャート的には崩れると値幅を伴う可能性があります。

 EURJPYは、波動目標の146.48円には達しませんでしたが、『雲のねじれ』(06/19)で発足来高値を更新し、本日は『転換線』割れで下げ足を加速しています。
 現状では、まだ健全な調整の範囲内ですが、チャート修復には時間を要すかもしれませんね。
素人ストラテジスト4
2006年06月20日 23:21
今晩は。                                      バーナンキの発言がないとマーケットは静かで動意薄ですね、バーナンキ相場?、18回も緊張なく、巨大赤字のファイナンス可能にすべく、次の利上げの期待を切らないように、しかし間もなく出尽くしでしょうか、6,00を超える利上げが有得るなら別ですが。そうすると今度は円の動向に左右される状況に当然なるし、日銀もマーケットの合理性ある先行に乖離していけば信認を失うでしょうし、そうすると金利テーマではこれ以上は無理?それより前の投稿の人も心配していたように、長期間モラルなく垂れ流した莫大な円資金に一斉にコストがつき始めるので、弱いとこから始り、怒涛の円キャリー巻き戻し相場にならないでしょうか?昨年の9月から12月にかけての一本調子の上げの逆回し、30兆円(2800億ドル)をも量的緩和というもとに節操無くタレ流していたので。
続き
2006年06月20日 23:31
その証拠に今日、福井さんが講演でゼロ解除に強気の発言をしたら即1円弱円高に、マーケットがまだドル持ちで利益が出るモードなのでしょうが、逃げ足も速そう。
mori
2006年06月21日 06:56
おはようございます。

昨夜はコメントを入れて頂きありがとうございます。
いつも25時頃までは作業しているんですが、不覚にも頭痛がひどく早めに休ませて頂きました。お蔭様で今朝はスッキリです。

コメントに書いて下さったように、金利テーマのドル高には限界があると思われます。
そして、日銀はゼロ金利解除のタイミングを見誤るとその反動を増幅するリスクを高めることになりかねず、マーケットもかなり神経質になってくると思われます。
7月は大きな転機になるかもしれませんね。
Tucker
2006年06月21日 09:42
森先生のオンラインセミナーを拝見してからコメントを読む時に前より雰囲気が伝わってくるようになりより一層イメージが湧くようになってきました(笑)

もし暴力的なドル安が来たらその時は乗ればいいのかもしれませんがマーケットが破壊されてしまうほどだとその後の証拠金為替取引自体への悪影響があるのかも知れないのかなぁと漠然と考えております。
mori
2006年06月21日 11:39
そうなんです。
マーケットの怖さを何度も目の当たりしてきたものですので、どうしてもリスクを強調しがちですが、割り引いて考えてくださいね。
また、オンラインセミナーは5月29日に実施したものですので、この間に米金利先高観が一段と高まるなど市場環境が大きく異なっていますので、分析の考え方だけを参考にして頂けると助かります。
Tucker
2006年06月22日 11:31
森先生

やはり「その後」の状態が心配されますよね。参加者が居なくなってしまえば流動性が保てなくなってしまうわけですから。

あくまで森先生のコメントを読む時にお姿やお声が頭に浮かぶという意味ですのでご心配なさらないでください(笑)

この記事へのトラックバック