ワシントンG7特別声明の意味合いを考える!?

 日米間の金利差にこだわり続けてきたアナリストの心中は察するものの、潮目の変化を読み切れなかったことは大いに反省する必要があろう。 個人投資家の外貨投資は、統計上ではすでに2月でピークを打っており、このことは為替アナリストよりも早く潮目の変化を察知していたことを示している。

 アナリストは経済理論には長けているものの、自己資本を投じマーケットにより近い存在にある洗練された個人投資家にはかなわないだろう。
 筆者の本業は為替トレードであり、少なからずマーケットに精通しているものと自負しているが、常に重視しているものは相場トレンド形成の前提となる“市場テーマ”であり、セミナーを通じても毎回欠かさず採り上げるポイントでもある。

 市場テーマの基本は、経済的な変化やその過程で生じた歪みや不均衡であり、次にどういう変化をもたらしていくのかが新たな相場展開を形成する源泉となる。
では、経済的な変化やその過程で生じた歪みや不均衡とは何か? これは、日々発信する為替コラムの中で幾度となく採り上げてきたことでもあり、読者は十分理解しているものと思われるが、以下に株式新聞の連載コラム「フォレックス・ウォッチ」(04/07)に投稿した“不均衡との共存に変調に兆し”の一部を紹介しよう。


―――市場のテーマの中心が、「金利差」一辺倒に傾斜した高金利通貨買いから離れつつある。(中段略) 昨年末までは、世界的な過剰流動性(カネ余り)を背景に高金利通貨国への投資ブームが活況を呈していたが、FRBによる中立的な金利水準の達成に続いてECBと日銀が金融政策の正常化に向けて動き出し、過剰流動性の吸収を警戒するホットマネーの手仕舞いが促されたのである。
 こうした手仕舞い相場は、流動性の低い市場から始まるのが常であり、初期段階では質への逃避や米短期マネーの母国回帰によりドル高を促すことが多い。しかし、第2段階では市場のテーマが米国の構造問題にシフトする結果、ドル急落を招いてきた。2005年の米経常赤字は過去最大の8,049億㌦となり、4年連続で過去最悪を更新、GDP比では7%に達し、ドル波乱の臨界点とされる5%を大きく上回っている。
 世界的なカネ余り現象に乗じて、米国の双子の赤字問題を黙殺する形で膨大な資金流入が促されてきたが、日欧が金融政策正常化に向けて動き始めたことより、「不均衡との共存」という前提が崩れ始めている。
(中段略) こうした状況下、4月下旬にワシントンで開催されるG7会合では「世界的な不均衡」について討議される見込みとなっており、カナダ中銀総裁は米国の対外債務について「不均衡が存続すると問題は“無秩序な方法”で解決されることになる」と会合に先立って警告を発している。
(中段略) ブッシュ政権の支持率が過去最低を更新する状況下、中間選挙を控えた米議会では“保護主義”や“排他主義”が俄かに勢いを増しつつあり、ドルを取り巻く不確実性は例年なく高まっている。高金利通貨の急落は、グローバル・マネーの変調を示唆する重要なシグナルといえるかもしれない。―――


 今回のワシントンG7特別声明は、世界経済の不均衡が看過できない規模に達しているとの危機感の裏返しと考えれば、この段階で簡単にドルが反転することは考えづらい。
G7の通貨マフィアは、ドバイショック(03年9月)の教訓でもある「市場による為替声明の深読み」を警戒し、為替に関する文言変更に慎重になってきたが、今回のG7で特別声明として不均衡是正を全面に打ち出した意味合いを改めて考える必要があろう。

 バーナンキFRB議長は、民主党のシャーマン下院議員に提出した書簡の中で、米貿易赤字の拡大について「破壊的な調整につながる可能性を排除できない」と述べ、ドル急落や長期金利上昇などの引き金になりかねいとの懸念を表明している。(04/19に同議員の事務所が書簡を公開)

 ワシントンG7会議は、こうした制御不能なドル急落や長期金利上昇に対する警戒を共有せざるを得ない状況に至ったという解釈になろう。 そして、一段の為替柔軟化で中国を名指ししたことは、米議会の保護主義圧力のガス抜きの意味合いも含まれているものと観測されるが、深読みすれば中国経由の輸出拡大で人民元安の恩恵を享受し続ける日本の貿易不均衡も槍玉に挙げられた可能性も考えられよう。 (⇒この点についての詳細は、今週の『森レポート』P.4をご参照下さい)

 いずれにしても、日足チャート上にはドバイG7以来となる大幅なチャートギャップが存在しており、ここがNYクローズベースで完全に埋められるまでは戻り売り優勢な地合いが続くことになろう。 因みに、03年9月のドバイG7直後のチャートギャップは、翌年5月まで8ヶ月間は埋められることなく、この間に115円処から一時103.40円(2004年3月31日)までドル安・円高が進展している。

 今週の『森レポート』及び『FX-Technical outlook』で採り上げた週足均衡表の『遅行線』は、週明けの急落により『日々線』に激突し、強い売りシグナルを点灯している。
これにより、波動目標として111.25円処を目指すものと観測されるが、そこで下げ止まる保証はない。 何故なら、ワイントンG7特別声明が言及した不均衡問題が解決していないからである。

 目先的には、スピード調整的な揺り戻し局面が想定されるものの、ここでトレンドが転換するとみるのは拙速と言わざるを得ない。 相場の地合いは、115円台を割り込むドル安・円高により、輸出の先行(リーズ)に対して輸入の遅行(ラグズ)へと転換しており、為替需給はドル売り・円買いへ傾斜している。

 加えて、双子の黒字を持つ日本経済は、常に潜在的な円高圧力を有しており、足下では所得収支(=企業や個人による海外投資などの収益)の黒字が月額1兆円超と貿易黒字を上回っているのである。 こうした円高圧力を吸収するだけの円売り圧力が浮上してこない限り、トレンドはドル安・円高に向かうことになる。 何より、円の実質実効レートはプラザ合意(85年9月)以来の奇異な円安水準に位置しており、脱デフレが見通せる日本経済にとっては、現在の円高は「Return to Normality」(=正常化のプロセス)と位置付けておきたい。

追伸
日本の通貨当局は急激な為替変動に対するけん制はするものの、円高を拒否しているわけではない。 したがって、市場介入はありえない選択肢でもある。 ドル買い・円売り介入は一時的に相場の流れを食い止めることができても、マクロ政策と整合的でなければトレンドを転換させることはできず、介入がドルの売り場を提供することになり、むしろ逆効果である。
それ以上に、ここで日本の通貨当局がドル買い介入に踏み切れば、それは新興市場国以下のレッテルを貼られることなり、市場の信認を失うという大きな代償を払うことになる。
 つまり、無秩序な状況に陥る恐れがない限り、市場介入はありえないということを念頭に置き、超短期トレードを除いては値頃感でのドル買いは慎重にありたい。

(4月25日 10:50記)


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この記事へのコメント

mori
2006年04月25日 16:15
海外勢が日本株など円資産の為替ヘッジ比率を引き下げ、円高進行の一因に
[2006/04/25 14:34:26] 海外勢が日本株など円資産の為替ヘッジ比率の引き下げに動いている。外為市場筋によると、これまでは米国の利上げ継続に伴うドル高/円安見通しが強かったため、海外勢は日本株投資に伴ってドル買い/円売りポジションを作り為替リスクを回避してきたが、G7を経てドル安/円高見込みが高まってきたことで、昨年までの円安局面で高めて
きたヘッジ比率を低下させる動きが出始めたという。ヘッジ外しはドル売り/円買いにつながるだけに、外為市場では円高進行の一因として関心を呼んでいる。

以上、ロイターニュースの一部抜粋です。
個人的に情報収集していますが、現段階ではデータの裏付けがない情報と受け止めています。
Nancy
2006年05月06日 21:29
Great work!
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Lena
2006年07月27日 19:08
Thank you!
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