人が変われば見方も変わる―――敬意を評すべきブレない円高論者

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昨日のNYタイムでは、日銀が公表する円の実質実効為替レートが話題の一つに上っており、これがNY勢による持ち高調整のドル売り・円買いを促す一因だったとされている。

 きっかけになったのは、昨日の日経CNBCで放送された「先物ワールド」で「円安の転換点を探る」とのテーマによる国内証券為替ディーリング部K氏(元大手邦銀為替ディラー)の解説であった。
 同氏は、円安反転の兆しはあるのかとの質問に対して、日銀の「円実質実効レート」が98年8月の円安水準を更新していることを取り上げ、これ以上の円安進展は持続的ではないと解説していた。

 98年8月といえば、USDJPYが一時147.64円に達した時であり、「円実質実効レート」はこの10月に当時の円安水準を下回っているのである。
 同氏の解説によれば、「プラザ合意(85年9月)以降は円実効レートが110以下に低下するとドル売り・円買い介入が実施されている」、「実効レートベースでは不均衡を拡大する恐れのある水準に達しているためこれ以上の円安は持続的ではない」とするものであった。

 確かに、98年は4-6月期に3日間(04/09に1,957億円、04/10に2兆6,201億円、06/17に2,312億円)だけ合計3兆470億円のドル売り・円買い介入が実施されている。
 現在の日本の政策当局にとって喫緊の課題は、急激な円安進展を阻止するためのドル売り・円買い介入なのだろうか? 
 デフレ脱却と財政再建が急がれる時に、円安阻止を考えるのだろうか?
 日本の通貨当局トップの谷垣財務相の発言は、「大きな意味ではファンダメンタルズ全体を反映した中の動きだと思っている。かなり、一時より動いてきたので、注意してみていかなければならない」と述べるにとどめている。

 日本の当局に円安阻止介入の選択肢があるとすれば、それは長期金利の急騰を招く恐れのある日本売り(⇒トリプル安=株安・債券安・円安)の動きが強まる場合だけではないだろうか。

 同氏は「世界的な不均衡を拡大する恐れがある」としているため、米国の膨大な経常赤字のことを指していると思われるが、昨年と異なってFRBがインフレ警戒姿勢を強化する状況下で果たしてドル安を望むのだろうか? 
 政策当局とすれば安定が第一であり、急激なドル高を望むことはないと思われるが、米国のポリシー・ミックス(政策の組合せ)からすれば、現状はドル高が整合的であるとすることができよう。


 そもそも、筆者が先月24日にK氏が所属する国内証券でセミナー講師を務めた際に、この日銀が算出する「円実質実効レート」を数あるスライド資料の中の1つとして活用したのが事の始まりであった。

 筆者は、「円実質実効レート」が98年8月以来の7年来の円安水準になっているのは、量的緩和策の影響や構造的な変化が背景にあり、95年4月を円高のピークに円高修正局面が進展していると解説した。ここにきて急速に円安が進展している背景の一つには、デフレ脱却によりこれまで委縮し続けてきたジャパンマネーが動き出していることが挙げられるとした。(銀行貸出のプラス転換など)
 日銀が初めて「量的金融緩和策」を導入した際のインパクトは非常に大きく、当時の英FT紙はヘリコプタニーに乗った速水日銀総裁が円をばら撒く“ヘリコプター・マネー”のイラストを掲載したほどあった。

 筆者がセミナーを終えるとK氏から声を掛けられ、「円実質実効レート」のデータ入手先を尋ねられた。
 その場では、筆者がK氏に対して一貫した「円高見通し」に敬意を評させて頂くという簡単なものであったが、昨日の日経CNBCでK氏の解説を見て驚き、そして昨日のNYタイムで「円実質実効レート」が話題に上っていたと聞いて再び驚いた。

 筆者のスタンスは基本的に「過去3年のドル安・円高に対する修正局面」であるため、現状ではなし崩し的なドル高・円安ではなく、「円実質実効レート」にサヤ寄せするというイメージである。

 アナリストやストラテジストに限らず、個人投資家も独自の相場観やシナリオを持っているものであり、筆者の場合は自身の分析に誤りや見落としがないかどうかを確認する意味で、同調意見ではなく反対意見に積極的に耳を傾けるように心掛けている。

 したがって、これまでも多くのアナリストのコメントに対する見解(決して批判ではない)を述べてきたが、これまでのところ筆者の相場シナリオの修正を促すほどの説得力ある反対意見がみられていないというのが現状である。
 それは何を論ずるよりも1㌦=117円台で推移しているマーケットが証明してくれている。

 但し、筆者も自身の相場シナリオに胡坐を掻いているわけでなく、日々の膨大なデータ収集を通じてマーケットの潮目の変化を探っているのである。

 昨日は、米株式市場が高級住宅建設のトール・ブラザーが来年度の販売見通しを下方修正したのをきっかけに、住宅市場が減速しているとの観測が広がり、住宅関連や小売関連株が軒並み売られている。

 米住宅ブームのソフトランディングの兆候でもあり、FRBの「Measured利上げ」が終盤に近づいたことを知らせるシグナルでもある。
 市場の短期金利見通しを反映するFFレート先物市場では、来年3月以降の金利先高観が軒並み下方修正されているのである。

 いずれ、「米利上げ打ち止め観測」という形で取り上げられ、ドルロングの持ち高解消のエクスキューズにされることになろうが、今がそのタイミングになるとは考えづらい。
その点は、ファンドマネジャーの視点で考えてみたい。

 最後に、今回登場して頂いたK氏は、上述の「円実質実効レート」のほかに、過去最高水準に達している「銀行対外純資産」を取り上げ、過去の実績に従えばこれ以上の銀行による対外資産拡大(=円安)は期待できないと述べられていたことを追記しておきたい。

(11月9日 11:00記)

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この記事へのコメント

謎の勝負師
2005年11月09日 12:39
こんにちは
相変わらず手厳しいですね(笑)
しかし、私も同感です。
この相場は、米の利上げ打ち止めが
ひとつのサインだと思っております。

私は相場経験4年程度で
経験も努力も足らんと
自認しておりますが
それでも、テレビなどで
アナリストを見ると
自分はこの人よりは相場を理解していると
思うときが多々あります。
もっと、頑張ってほしいものですな~

森さんの相場に対する
努力と情熱はすばらしいですね

mori
2005年11月09日 12:59
 謎の勝負師さん、お久しぶりです。
 私もいつ逆の立場になるかわかりませんので、日々のデータ分析は手を抜けません。

 今日は少々コメントが長くなったので省略しましたが、実はIMM日本円先物オプション市場では変化の兆しが出ているのです。
 それは、コールオプションの取組が急増していることですが、市場の強弱感を測る一つの目安とされる『プット・コール・レシオ』が円高方向に転換する可能性を暗示しているのです。
 1日だけのデータで判断することはできませんので、まだコメントとして取り上げる段階ではないと判断していますが、その他のデータに関しても日々の微妙な変化を見落とさないように心掛けています。

 このブログにアクセスして下さっている方々には、こうした情報をご提供していきたいと考えいますので、引き続き暖かく見守ってください。
kikaiya
2005年11月09日 14:55
いつもありがとうございます。
たしかにそうですね、この森さんの解説を読ませて頂くようになってからはモーサテなど見ていてもこの人今頃何言ってるんだろうと思うことが多くなりました。素人にとっては転換の時期とポイントがなにより知りたいところ、それを裏付ける解説をして頂いていることに本当に感謝感謝であります。トレンド方向のポジは出来るだけ放っておきたい方なので森さんの方向感に賭けています(勝手にすみません)。ファンド勢の騙し的揺さぶりだけには引っかからないようにしたいです。陰ながらご活躍応援しています。
mori
2005年11月09日 15:45
kikaiyaさん、ありがとうございます。

 6月頃までドルショート戦略で成績不振に陥っていたヘッジファンドにとって、残り2ヵ月は挽回のチャンスとなり、現在のドルロング戦略が最も居心地が良いポジションだと思われます。

 また、ファンドマネジャーの視点に立てば、12月と来年1月のFOMCでの利上げが確実視される状況下ではドルショートは整合的ではありません。

 ということは、ファンド筋にとっても、ここで利食いに動いても、次に仕込むポジションが再びドルロングということであれば、動かずに利を伸ばしたほうが得策となります。

 為替関連の掲示板などでは、早くもドル天井説が飛び出したり、調整入りを囃すコメントが賑わっていますが、説得力のある解説は見当たらないのが現状です。

 現在のようなスピード調整は想定されますが、トレンド転換に結び付く材料は今月第4週まではないと考えています。
フェレンギ
2005年11月09日 17:50
いつもありがとうございます。

今日は変な質問なのですが、昨日、ユーロドルが1.1700近くまで到達した際に買い支えが出ているように感じました。
巷では、露西亜、中国の買い支えが出ているという不確実情報が流れましたが、森さんはこの
露西亜・中国のユーロ買い支えと言うことが本当に在ると見ているでしょうか?
また、その様な情報はお聞き及びでしょうか?
私的には相場に付き物の゛幽霊゛と見ていますが、ジオロジステックの側面から見ますと、あながちありえない話ではないとも見ています。

お時間がありましたらで結構です。
宜しければ、見解をお願いしたく思います。
mori
2005年11月09日 18:03
フェレンギさん、こんにちわ

 昨夜の情報では以下のようなものしか受け取っていません。
 European corporate bids at 1.1710 with option protection of 1.1700.

 1.1700㌦処はバリア系オプションの防戦買いが指摘されていましたが、上にも行けない相場ですので、いずれ破られるのかなと期待しています。

 テクニカル的な観点からは、すでにネックラインを割り込んでいるため、1.1800㌦へは戻れない相場だと認識しています。
 
 それ故、仮に1.1800㌦台へ簡単に戻してしまうようなら、USDJPYのトレンドも変わる可能性がありますので、一応、念頭に置いておきたいですね。
フェレンギ
2005年11月09日 18:49
あのような与太な質問に御解答ありがとうございます。
私も、現在はユーロドルがキーになっていると見ています。

>それ故、仮に1.1800㌦台へ簡単に戻してしまうようなら、USDJPYのトレンドも変わる可能性がありますので

私もそうではないか?と見ていましたので、森さんの見解は心強いです。

お時間を頂きありがとうございました。
mori
2005年11月09日 21:57
ドル/円の一段上昇に問題なしと日本の財務省高官が示唆=ABNアムロのリポート

オランダ大手銀行のABNアムロは9日付の外為リポートで、ドル/円が一段と上昇することについて日本の財務省高官が問題はないとの見方を示したと伝えた。

リポートによると「円は実質貿易加重平均ベースで過去10年来の安値に近い水準にあるが、日本経済は回復しつつあり日経平均も強く、財務省高官は現在のドルの水準について完全に妥当で理解できるとの考えを示した」という。

 また、問題があるとすれば、それはドル高の問題で、円安の問題ではないとの見方も示したという。

 財務省高官は、ABNアムロとのミーティングで、ドルに対するヘッジの圧縮がドル/円上昇の一因との見方に同意し、同時に多くの外国人投資家は日経平均株価に投資するために円を借りていたとも語った。

投機筋がドル/円のロングポジションになっ
ていることも認識していたが、このポジションが現時点で解消されドルが下落する可能性はないとの見方を示したという。

以上、ロイター記事からの抜粋です。
2005年11月09日 22:31
7日に以下のコメントをだしたら、総スカンをくらいました。
ユーロ/円は昨年12月30日の141円59銭で5波動の上げを終了し、そこからA波の下げに入った。
A-1波の下落1月19日 132円99銭
A-2波の反発3月14日 140円67銭
A-3波の下落3月23日 137円31銭
A-4波の反発4月21日 140円48銭
A-5波の下落6月23日 130円61銭
B-1波の反発8月8日  138円84銭
B-2波の下落8月22日 133円53銭
B-3波の反発11月3日 141円16銭
現在C波の下落に入った。
C-1波の下落ではA-1の132円99銭~B-3の141円16銭までの上げの38.2%~50%までの下落が見込まれる。
結論C-1の下落では138円04銭~137円07銭までの下落となろう場合によっては61.8%下落の136円12銭もありうる。
さらにC波全体の下げでは、スタート時点の
88円96銭~141円59銭までの上げの38.2%~61.8%
の下落となる。
C波全体の下げは121円49銭~109円07銭までの下げがありうる。
mori
2005年11月09日 23:07
 私のEURJPYのラベリングでは、まだ<第5波>は継続していることになります。
 11月6日に投稿したコメントにチャートを添付していますので、ご参考にして下さい。

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